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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(あ)1591号 判決 1960年11月29日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人山本治雄の上告趣意第一点について。

所論は憲法三一条違反をいうが、刑訴四八条二項は公判調書に記載すべき事項とその範囲とを最高裁判所の規則の定めるところに一任しており、原審第二、第三回各公判調書に「公判手続の更新、裁判官がかわったので公判手続を更新した」との記載がある以上、所論刑訴規則二一三条の二所定の更新手続は適法に行われたものと認むべきであるから、所論は理由なき訴訟法違反の主張に帰し、既に、その前提において採用し難い(昭和二八年(あ)第二七三三号同年一二月一五日当小法廷判決、昭和三一年(あ)第四〇七五同三五年四月一二日当小法廷判決、昭和三一年(あ)第一七九三号同三四年六月三〇日当小法廷決定、昭和二九年(あ)第一五一七号同三〇年二月一七日第一小法廷判決、昭和二八年(あ)第一二二〇号同二九年七月一四日第二小法廷決定参照)。

同第二点について。

所論は原判決の憲法三八条第二項違反を主張する。しかし、抑留若しくは拘禁が不当に長いか否かは唯だ時間の長短ということのみで抽象的に決せられることではなく、犯罪の個数、関係人の数、取調の経過、その難易等諸般の事情を考慮した上、具体的に決せらるべきものであること(昭和二二年(れ)第一四二号同二三年二月六日大法廷判決集二巻二号三二頁、昭和二二年(れ)第三〇号同二三年二月六日大法廷判決集二巻二号一七頁、昭和二二年(れ)第一七〇号同二三年七月一九日大法廷判決集二巻八号九四四頁)およびその抑留若しくは拘禁と自白との間に因果関係のないことが明らかである場合には、その自白が同条項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」にあたらないこと(昭和二二年(れ)第二七一号同二三年六月三〇日大法廷判決集二巻七号七一六頁、昭和二三年(れ)第二七七号同二四年七月一三日大法廷判決集三巻八号一二六四頁)は、いずれも、当裁判所大法廷判例の趣旨とするところである。本件につきこれをみると、成程、起訴事実は二つで、それも自転車二台の窃盗という比較的軽微なものであるところ、被告人は検挙以来この事実を否認し、右自転車はいずれも他人から買ったものであると弁解しており、被告人の第二審第三回公判における自白が逮捕、勾留約九ケ月後の自白であることは所論のとおりであるが、右自白は公判廷における弁護人質問の際になされたものであるのみならず記録によると、原判示第一の窃盗の事実は、賍品が転々した結果、関係人の数が多く、検挙以来の被告人の右否認には不自然なところがあって、有罪の証拠は揃っており、現に第一審でも被告人は有罪となっているのであって、原審第三回公判における自白が所論のような事情の下になされた虚偽の自白であるとは到底認められないところである。しからば、同自白が憲法三八条二項にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」にあたらないことは、前記諸判例の趣旨に微し明らかであるというべく所論違憲の主張は理由がない、その余の論旨は事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。

被告人の上告趣意について。

所論は事実誤認の主張を出でないものであって、上告適法の理由にあたらない。

また記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由ありとは認められない。

よって、同四〇八条、一八一条に則り、裁判官全員一致の意見で主文のように判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋 潔 裁判官 石坂修一)

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